“文章はうまくなくてもいい”という教え。 「私にとって“救い”の言葉でもありました」

ビジネス書から実用書、自己啓発、ノンフィクションまで、実に幅広いジャンルの著者や編集者から指名され、年間10冊ものブックライティングを行なう佐藤友美(さとう・ゆみ)さん。佐藤さんは「上阪徹のブックライター塾」1期生。「上阪さんの『職業、ブックライター。』を読むまで、この職業を知らなかった」と語る彼女は、いかにして天職と出会ったのか。ブックライター業の面白さを語っていただきました。

佐藤友美(ブックライター塾1期生)
取材/猪俣奈央子(ブックライター塾5期生)
写真/上田修司(ブックライター塾2期生)

ライター人生のはじまりは、NHKのナレーション原稿

――まずは、「ライターになったきっかけ」について教えてください。

佐藤さん(以下佐藤) もともと出版社志望だったのですが、いろいろなご縁があって、新卒ではテレビの制作会社に入社しました。仕事の99%は番組ADとしての業務。ただ、ほんの1%、執筆の仕事もあって。最初に任されたのが「NHKのナレーション原稿の下書き」でした。その時NHKの方に口を酸っぱくして言われたのが“小学生からお年寄りまで理解できる、わかりやすい原稿を”ということ。今振り返れば、この体験が私のライターとしての原点だったのかなと思います。3年程番組制作の仕事をやって、やはり私は「映像で伝える」よりも「書いて伝える」仕事がしたいと、会社を辞め、フリーランスになりました。

――そこから本格的に「ライター」に転向されるわけですね。

そうです。当時はまさに美容師ブーム。ひとつのファッション誌に何本も「ヘア」の特集記事が載るような時代。私自身も「ヘア」の分野でたくさん経験を積ませてもらいました。企画出しから撮影現場の仕切り、写真のセレクト、ページのレイアウト組み、ライティング、時には広告の営業や販促活動まで。雑誌づくりの上流から下流までぜんぶ、手がけていました。

「作家じゃなくても、本を書けるんだ」という発見と衝撃

――まさに順風満帆なキャリアを歩まれていた佐藤さん。そんな中なぜ、「上阪徹のブックライター塾」を受講しようと思われたのですか?

客観的には順風満帆に見えるのかもしれませんが、当時の私はライターとして葛藤をかかえていました。ヘア業界で経験を重ねるうちに、実はどんどん「書く仕事」から遠ざかっていたんです。美容院のコンサルティングをしたり、商品開発をしたり、美容師さん向けの講習会に登壇したり…ビジネスの半分は「書く以外」の仕事。“私が本当にやりたいことって?”“書きたくてライターに転向したのに、このままでいいの?”と自問自答する日々でした。そんな私に友人が『ゆみちゃんがやりたいことって、本当はコレじゃないの?』と手渡してくれたのが、上阪さんが書かれた『職業、ブックライター。』だったんです。

――『職業、ブックライター。』を読まれて、どうでしたか?

そもそも、「ブックライターという職業がこの世に存在していること」自体が衝撃的で。読み終えた日の夜、夫に「私、転職する!」と伝えたことを覚えています。

もともと、私がなぜ書く仕事をしたかったかというと「考えること」が好きだから、なんですね。「考えること」がそのままお金になる仕事がしたいと思ってライターになったんです。だから雑誌で書く100文字のキャプションよりも、2000字、4000字のインタビュー原稿の方が考える時間が濃密で楽しかったし、それよりさらに深く思考できるであろう10万字の書籍は憧れでした。ただ「本を書くのは作家の特権」だと思っていたんですね。私にはゼロから何かを生み出す作家的な才能はありません。でも著者さんに取材して、その方の物語やノウハウを伝えることだったらできるかもしれないと。

上阪塾で学べたことは、ブックライターとしての生き方

――ずばり、「入塾して良かったこと」って何でしょう?

上阪塾での学びで、いちばん有難かったのは、ブックライターとしてどう生きていくか、を知れたこと。多くの編集者や著者さんからの信頼を得て、何年もこの業界のトップを走っている「上阪さんの仕事ぶりや考え方そのもの」が、私にとって大きな道しるべになりました。

上阪さんがよくおっしゃっている、「文章はうまくなくてもいい」という教え。それは私にとっては“救い”の言葉でもあったんです。ブックライターは、文豪のようにオリジナリティのある物語やファンタスティックな文章を書く必要はない。それよりも、読者の相場観を理解することや、わかりやすくてきちんと届く文章、納品日を守ることなど、ビジネスパーソンとして信頼されるふるまいのほうが、余程大事だと。

以前から、私の文章は、「わかりやすくてあっという間に読める」と感想をもらうことが多かったんです。それが実はずっとコンプレックスでした。わかりやすい文章って、何だか深みがない気がして。でもブックライターの世界では、これが強みになる。著者さんの言葉にしにくい想いを言語化して、わかりやすく伝える技術が重宝される。「この分野なら、書いて一生食べていけるかもしれない」と思ったことは、大きな希望でした。今では、読者の方から「はじめて1冊本を読み切りました」と言われると、誇りに思えるようになりました。

――最後に、ブックライターという職業の面白さについて聞かせてください。

まず、ひとの人生を疑似体験できること。誰かが何十年もかけて培った人生観やノウハウを、目の前で聞くことができる。しかも質問までできるなんて、贅沢な職業ですよね。そして、著者さんの人生に伴走し、応援できること。私は初著作を担当させていただくことが多いのですが、書籍を出版することで、著者さんがその道でやりたかったことを実現できるようになったり、人生が好転していく様を間近で見られることが、本当に嬉しいです。